2013-01-14 [長年日記]
2013-01-18 [長年日記]
_ [読書] 安積遊歩『癒しのセクシー・トリップ』
著者は骨形成不全という病気を患っていて、体が不自由だったり、骨折を繰り返したりしている。小さいときには効果の望めない痛くてつらい治療やセクシャルハラスメントを経験する。小学校は、はじめは普通学校に通っていてうまく適応していて、特に自己に対する信頼を持ち、自己主張することや障害を持っていることによる困難に際してまわりから自然に助けを得ることができていた。それが、いろいろな状況が重なって施設に入所すると、障害者としての劣等意識を植えつけるような扱いによって自己への信頼が損なわれてしまったと回想している。なんとか施設を出て普通の中学校を卒業してからも自殺を考えるようなつらい日々。そうした経験の後に、障害者の当事者運動に参加し、アメリカでの半年の研修でコウ・カウンセリングに出会う。障害をもっていることの他に、女性としての困難、パートナーとの関係、セクシャリティに関する取り組みを通して自己に対する信頼を取り戻していく。
大変なつらい経験をしていると思うのだが、そういう部分はさらっと書いていて、著者の人間的な余裕というか、本を書いた時点での生活の充実ぶりを感じた。好きになる人が健常者ばかりで自分自身の中にも障害者に対する差別心を感じたということが一例だが、著者の自分をモニタリングする能力には感心しきりだ。施設では健常者がモデルで障害者を健常者に近づけようと考えているため、車椅子をできるだけ使用させないといった不合理な対応や、障害者本人の訴えによる必要性より医者の診断書の方が重視されるとか、『リハビリの夜』や『困っているひと』を思い出すような問題も。こういう問題については、財政的な制約から現在の方がひどい状況になっているということがないことを願いたい。
おすすめ度:★★★★★
2013-01-19 [長年日記]
_ [読書] 児玉真実『アシュリー事件』
重度の障害をもつアシュリーという女児に、エストロゲン大量投与による最終身長の制限、子宮摘出、"乳房芽" の摘出による成長抑制療法を行った問題やその論争について書かれている。アシュリーに関する具体的な問題にとどまらず、話題や議論はより広い範囲につながっていてとても勉強になった。
アシュリーに対する成長抑制療法に関しては、病院の倫理委員会がきちんと機能していない、実施した医師の説明責任に果たしていない(そもそも、説明責任を果たせるような検討がされていない?)、アシュリーの父親に関する疑問、子宮摘出の違法性について、など具体的に問題点が指摘されている。私のまったくの想像としては、革新的な手法を開発したいという医師の功名心や障害者である娘が性的な存在になってほしくないという親のグロテスクな欲望などを考えていた。しかし、読み進めていくと、アシュリーのケースの検討から他の障害者の救命、延命に関する問題に触れられていき、私が考えていた個々人の利害というよりも成長抑制療法が許容される社会的な流れも浮かび上がってくる。
その一つは "無益な治療" という考え方で、救命できる可能性がある場合でも医師が QOL (Quality of life) が低く、その努力に見合わないと判断したら治療を拒否できるというものだ。QOL を判断するのはその病気の本人であり、価値判断を含むことだから本人以外には不可能だと思っていたのだが、QOL という考え方を使って治療を拒否するという考え方が出てくるとは。本書では深くは触れられていないが、もうひとつ恐怖を感じたのは、脳死は人の死であることが医学的に間違っていることを認めた上で、現在でも移植が行われているのだから、脳死以外の植物状態になったときにも臓器移植を認めるべきだという意見があるらしい。脳死移植に反対の根拠の一つとしては脳死は人の死ではないという考え方だと思うのだが、移植が普及すると逆に臓器提供者の範囲を広げる理由とするとは。論争があっても一般に普及させることで実績を作り、それが解禁を進めるということなのだろうか。
本書の最後に、障害をもつ子どもの母親として、アシュリー事件を考えていく上で引き裂かれていった著者の思いが述べられている。愛情による美化が障害をもつ子どもの介護について親を追いつめる、障害者本人やその親に必要なのは彼らを孤立させないような社会的なサポート、福祉の充実である、という非当事者としては気づきにくい部分であるが、著者の経験に基づいた主張には考えさせられる。
おすすめ度:★★★★★
2013-01-25 [長年日記]
_ [読書] 白洲正子 河合隼雄『縁は異なもの』
いくつかの対談と二人に関係する短文をまとめた本。河合隼雄の他の対談よりくだけていて冗談が多い印象を受ける。対談相手の白洲正子の年齢からくる落ち着きのようなものがそうさせたのだろうか。
最初は、教育に関して触れられていて、対談の中で、子どもはほうっておいて良いけれども、大人の教育を考えなければならないという考えが述べられていて感心する。ただ、このような考えと「心のノート」に関わっている河合がどうもつながらない。河合の著作から受ける印象と「心のノート」のギャップを埋めるような解説は見つかるのだろうか。
全体としては、能や芸術に関する話題、二人の著書に関係する青山二郎や明恵上人についての話題が中心となっている。白洲の著書を私は読んでいないので、機会があれば読んでみたいと思う。
おすすめ度:★★★☆☆
2013-01-29 [長年日記]
2013-01-31 [長年日記]
_ [読書] 安積遊歩 辛淑玉『女に選ばれる男たち』
安積と辛の対談とそれぞれのパートナーの石丸偉丈と坂本幸男の対談で構成されている。障害をもつ安積と在日コリアンの辛はそれぞれ差別と闘うことを強いられていて、マイノリティとして生きることのしんどさを感じさせる。マイノリティに協力している人々に、それが善意によるものであっても、傷つけられるといった経験があったり、連帯の難しさも考えさせられる。
彼女たちのパートナーの石丸と坂本は男性の平均以上には家事をこなすのだろうとは思うのだが、気が利かない(利かなかった)と評価されている。男性として育てられると家事能力は身につかないということなので、自分も気をつけたい。辛の人間関係のとり方との対比になっているが、安積がはっきりと石丸に要望や不満をいうという関係がうかがえる。それでも関係が悪くならないという安積と石丸の信頼関係には本当に関心する。そうそう身につく態度ではないと思う。
おすすめ度:★★★★★
_ hiro [DVD名は「ラストデイズ オブ ザ ワールド」です。多分。]